ヘブンズドアの先には白い巨人が安置されていた。
アダム。いや、これはアダムじゃない。
リリス。
黒き月リリス。
やはりね。思った通りだ。

「――そうか。君は最初からここにいたんだね。このジオフロントは君が最初に来た時出来たってわけだ。それからずっと待っていた。継承者がここまで来るのを」

今頃老人達は喜んでいるのだろう。計画通りに進むシナリオ。自らと僕の寿命が切れる前に長年の願いが叶うのだから。
僕はまんまと騙されたわけだけど、気付いたところで逆らえないならまぁ同じか。

「君は残念だったね、アルミサエル」

僕の腕に欠片しか残っていないアルミサエルは、今はじっと沈黙している。
それもそうだ。ここは君の目指す場所じゃない。でも勘違いして僕に残ったのは君だからね。
それに半分以上は彼女に還した。あそこは多分、今の僕よりもアダムに近い。運が良ければ還れるかも知れないよ。
もっとも……今からのシンジ君次第だけど。

「……遅いな」

足元のLCLが小さく波を立てている。エヴァ達の戦闘音が段々こちらに近付いて来る。
――早く。
早く追って来い碇シンジ。ぐずぐずしてると置いてくよ。
君に従うつもりはないけど、黙って先に行くのも面白くないよね。

『裏切ったくせに!』

「……」

足元の波が激しくなった。僕は振り向いて彼を待つ。

――早く。

何となく落ち着かない気分になる。
……まさか、気のせいだ。余計な感情は全て彼女に還した。

――早く。

波の音が大きくなる。開きっぱなしのヘブンズドアの向こうから巨人の体躯がぶつかり合う音がする。
近付いて来る。
――早く来い。
もうそこまで来てる。
――早く!

しかし音は扉の向こうで止まり、激しかった波も止んだ。

「何してんだ!早く来いよッ!!」

お願い早く。
早く来て。碇シンジ。