「おっそーい!!遅すぎるわよバカヲル!主役のあんたが一番最後に来るなんて、何やってんよ!」
「ごめんごめん。生徒会の会議が長引いちゃってさ」
放課後、暗くなってから葛城三佐のマンションに訪れた僕は、マンションの入り口で待機していたセカンドチルドレンに怒鳴られた。学校を出る時、シンジ君に『今から出る』とメールを打ったから、多分それを見て僕が到着する頃合いに下りて来てたんだろう。
セカンドの薄いイエローのワンピースには、胸元にオレンジ色のキラキラした花が咲いている。コサージュだ。
「もう、会議なんて適当に理由つけて抜けて来なさいよね!皆待ちくたびれてるんだから。大体あんたが生徒会に入ってること自体信じらんない。大丈夫なの?あんたの学校」
「無茶苦茶言うね。遅れたのは悪かったよ。皆はもう部屋にいるんだろ?行ってもいい?」
「だから待ちくたびれたって言ってるでしょ。さっさと行くわよ、ほら!」
ほんのり良い香りのするセカンドに急かされて、二人でエレベーターに乗り込んだ。目的の階に着くと、これまたセカンドに背中を押されて部屋へと急ぐ。
「そんなに急かさなくても」
「私がお腹減ってんのよ。あんたが来ないとごちそう食べれないんだから。皆もお待ちかねよ、ほら早くっ」
どうやら自分の腹事情が優先らしい、なんてね。
まあ歓迎してくれてるってことはわかるから、ここは素直に背中を押されておこう。
鍵のかかっていない玄関の扉を開けると、中からは何やら美味しそうな香りと賑やかな声がした。玄関の狭い三和土には、スニーカーやらサンダルやらの数名分の靴がきちんと整えられて置いてある。
成る程、本当に全員集合しているみたいだな。セカンドが言うように、僕がラストってわけか。
「ほーら早く上がりなさいよね」
「ああ、うん」
「後はあんたが座るだけなんだから」
うん。
「みんなぁー!カヲル到着したわよー!」
セカンドに続いて玄関を上がり、廊下とリビングを仕切っている短いのれんを捲ると、そこにはセカンドを含む5人の男女が、カラフルな食事の乗ったテーブルを囲んで勢揃いしていた。
「あ、いらっしゃーい渚」
シンジ君。
「こんばんは、フィフス」
ファースト。
「なんや渚、どこで道草食っとったんかいな。こちとら腹減って目ぇ回るとこやったでぇ」
鈴原トウジ。
「もう鈴原はつまみ食いばかりしてたでしょ!文句言わないの!渚くん、お久しぶりね。こんばんは」
洞木ヒカリ。
「カヲルは一番奥の席よ。今日はあんたが主役なんだから。さあもうさっさと乾杯してさっさと始めましょ、お腹空いちゃった。シンジ、冷蔵庫からジュース持って来て!」
「うん」
「ほらぁ鈴原、あんたもボーっとしてないで碇くんを手伝いなさいよ」
「な、なんでワシが。おい渚、悪いがセルフサービスや。お前碇んとこ行って一緒にジュース持って来いや」
「すずはらっ!」
ファーストに「こっち」と手招きされて、一番奥の席についた。上座の、いわゆる『お父さん席』から見渡すと、入った時には気付かなかった部屋の入り口側の壁に、キラキラしたモールで飾り付けがしてあるのが見えた。
程無くしてシンジ君が人数分のグラスが乗ったトレイを抱えて戻って来て、それが皆の手から手へと配られると、そこで漸くこの会のはじまり。
皆がグラスを持ったので僕も真似して持った。
「じゃあシンジ、始めちゃって」
セカンドに肘でつっつかれ、やっと席についたばかりのシンジ君がはにかんで笑う。
「えーと、じゃあはじめます。えー本日は~お日柄もよく~」
「おいおい碇ぃ、そんな堅苦しい挨拶しとったら朝までかかるんちゃうか?そんなん親戚の爺さんのスピーチやで」
「もぉまだるっこしいのはいいからさっさと要点だけ言って乾杯しちゃいなさいよ。ほんっとにドン臭いわね」
「トウジ、アスカ…。うん、それもそうだね。じゃあ改めて。ええとそれでは今から渚カヲル君のお誕生日会?パーティー?を始めます。えー渚、17歳のお誕生日、」
“誕生日”
「おめでとう!」
カチンカチンとグラスをぶつけ合い、皆にそれぞれ「おめでとう」と言われた。
皆待ってましたとばかりに食事に手を伸ばしたから、僕もそうした。
グラスの中はオレンジジュース。
食事は唐揚げとポテトフライとエビチリとサラダと焼きビーフンにミートボールにその他色々。僕の好きな玉子焼きと生春巻きもある。
9月13日。夜。
こうして僕の『お誕生日会』は始まった。