日曜の朝は誰だっていつまでも寝ていたい。前日遅くまで試験勉強をしていた僕のような奴なら特にだ。
だけどそういう時に限って安眠の邪魔が入るのが世の中の常。
これって一体なんでなんだろう?何かの陰謀?宇宙の法則?
そんな疑問はさておいて、とにかく問題のそれは、まず一本の電話から始まった。
2029年・7月。第一日曜日。
この日、期末試験を目前に控えた僕の貴重な睡眠時間は、セットしていた目覚まし時計より随分早くに鳴り響いた携帯電話の着信音により妨げられた。
そしてそれが、その後僕に降りかかる様々なスッタモンダな出来事の。
始まりだったんだ。
ロイド13【ロイドジュウサン】
僕と人造人間とソーダブルーの夏
* * *
『あの日ぃ~♪僕らがぁ~目指した~のはぁ~♪』
その日、僕を朝っぱらから叩き起こしたのは、携帯電話の着信音だった。
僕は碇シンジ。14歳。訳あって第三新東京市で一人暮らしをしている。
『ソーダーブル~の空ぁ~♪弾ける~未来~♪』
音楽サイトからダウンロードした《渚かをる》の最新曲が、その時まだどっぷりと夢の世界にいた僕を容赦なく現世に引き戻した。
『甘くてぇ~酸っぱい~僕らの~世界は~♪』
「……んもぅ……誰だよ……こんな時間に……」
たらたらと鳴り止まない歌声に、寝惚け眼をこすりつつ目覚まし時計を見てみると、時計の針は午前9時を指していた。
…… ”こんな時間” って程早くもないか。でも昨日は遅くまで勉強して、やっと寝たのが明け方だった僕からすれば朝の9時だって十分眠い。
それに今日は午後から大事な用があるんだ。だから今のうちにしっかり寝ておきたいんだけど……
『まるで~♪炭酸水の~ようだね~♪』
「ああもうはいはい!わかった、わかったよっ」
僕がぼんやりしている間にも、歌は早くもサビに突入していた。
「もーうるさいなぁ」
このままじゃフルコーラス聞かされそうだったので、僕は仕方なく目覚まし時計の横に手を伸ばし、充電機のコードが刺しっぱなしになっている携帯電話を手に取った。二つ折りの携帯電話の液晶には、見知らぬ番号が表示されている。ピッと通話ボタンを押して電話に出た。
「……はい、もしもし」
あからさまに不機嫌な声だったと思う。寝起きだったから余計にだ。
だけど電話の向こうからは、僕の不機嫌な声とは対照的な落ち着いた男性の声が返ってきた。
『碇シンジ君?』
知らない声だった。
正直、最初は友達のトウジかケンスケからの電話だと思ってた。携帯番号が変わるなんてよくあることだ。
でも全然知らない声。全然知らない声は電話口で僕の名前を呼んだ。
『この番号、碇シンジ君の電話番号だよね?』
誰だろう。低くて耳あたりの良い不思議な声だな。知らない声のはずなのに、どこかで聞いたことある感じがする。知り合いにこんな声の奴いたっけ?
「どちら様ですか?」
個人情報がバンバン流出しまくってる今、携帯番号ぐらい誰でも知っている可能性がある。
声の主に心当たりがないので、大方電話営業のセールスマンか何かだろうと思い、適当にあしらって切ることにした。こういうのにつかまると厄介だ。
「セールスならお断りします」
『あれ?これ碇シンジ君の電話じゃないの?変だな』
「だからどちら様ですか?用がないなら切りますよ」
『おかしいなぁ。間違ってるはずないんだけど。君、碇シンジ君だよね?そうだろ?』
なんだこいつ。人の話聞かない奴だな。
「新聞とかなら間に合ってます。他あたって下さい。じゃ」
『待った。ねえ、碇シンジ君に届け物があるよ』
……ん?
『君、最近ネットで買い物しなかった?それを届けに来たんだ。こっちも違う相手に商品渡すわけにはいかないから、君が碇シンジ君じゃないならこのまま引き返すけど。どうする?』
買い物?買い物って、もしかして。
「あ!もしかしてパソコンのこと?」
ネットで買い物と言われてピンときた。そうだ僕、先週ネットのPCショップで新しいパソコンを買ったんだ。
僕が今まで使っていたパソコンは、僕が小学校の時に父さんに買って貰ったノートパソコンで、最近では古くなったせいかあちこち色々調子が悪い。それでなくてもさすがに時代遅れの旧式スペックが物足りなくなってきたので、先週とうとう思い切って、前々からこつこつ貯めていたお小遣いと今回改めて父さんに前借りしたお小遣い数ヶ月分を合わせて、新しいパソコンを買うことにしたんだ。
折角買うんだからどうせなら気に入った物をと、ネットのPCショップをあれこれ巡って、新型モデルの格好いいやつを予算ギリギリで注文した。
でも新型でそこそこお手軽お値段というだけあって、当然注文も多いらしく、発注してから届くまで早くて一ヶ月はかかると言われてたんだ。
「買い物って、パソコンのことですか?もう届いたんですか?」
『パソコン?ああ勿論PCもあるよ。付属品一式持って来たから。必要な物は全部揃ってると思うよ』
「届くのに時間がかかるって聞いてたんですけど」
『そう?一応入金を確認して直ぐにドイツを発ったんだけどな。空輸だから早かったのかもね』
ドイツ!?あのパソコン、海外から取り寄せだったのか。
「じゃあその、もしかして今日持って来てもらえるんですか?」
『持って来るも何も今君んちの真ん前にいるよ。君の家、第三新東京市○○町○―○葛城アパート103号室だよね?まあこれは君が碇シンジ君だったらの話だけど。で、君。結局どうなの?碇シンジ君なの?違うの?』
「碇シンジです!今開けます!」
ゲンキンなもので、パソコンの配送と聞いた途端僕はベッドから飛び起きた。
だって楽しみにしてたんだ。まだまだ当分先だと思ってたのに、こんなに早く届くなんてラッキーだ。