異変 - 1

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パチリ。
左の中指の爪が割れた。中心を根元まで一直線に。赤い鮮血がパタパタと落ち、爪の付け根から手首までを白い筋が蛇のように走る。
ふん、なるほど。ここにいたのか。下手な小細工してくれるじゃないか。
中指を内側にクンと折ると、途端に白い筋は爪の中に戻った。

『聞いているのか』
「聞いてるよ」
『計画の進行が遅れている』
「さっき聞いたよ」
『ならば話は早い』

黒いモノリスが僕を威圧するかのようにせり上がる。くだらない苔脅し。視覚効果としてはまあまあだけど。

『引き続きサードチルドレンの監視を頼むぞ』
「わかってるさ。やってるだろ」
『最近報告を怠りがちだな』
『左様。お前の存在は我々あってのものだと言う事を』
「ゆめゆめ忘れぬよう、だろ?」

は。聞き飽きたね。

『報告は怠るな』
「で、期限いつ?」
『もう間もなくだ』
「ひと月そこらってとこ?」
『お前が気にする事ではない』
『お前は自分のシナリオを全うせよ』
「……わかってるさ」

そのために僕はここにいるんだろう?

『では、再び連絡する』
「了解」

りょーかい。


爆心地の湖畔からモノリスの幻影が消える。同時に二股に割れた中指の爪がキチキチと動く。
残念だったね。この程度じゃ逆らえないよ。僕を乗っ取るつもりだったんだろう?僕も随分見くびられたもんだね。こんな小さな欠片でどうしようってのさ?
むしろほら。この程度なら。

「僕の言いなりに出来るんだよ」

甘いね。

「・・・・エル」

ピチピチと泡を吹いて爪先から血液が溢れた。僕の足元の首の折れた天使の像に、赤い染みが広がった。

「……再生計画」

遅れてるのか。僕のシナリオ。しかしそれでも。

「残る時間はあと少し、か」

パチ。ポトリ。

割れた爪が片方落ちた。



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