灼熱のアスファルトを走った。
まるで愛の告白をされているようだった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
こんな事で揺れたくない。こんな事で埋まりたくない。
僕の心。僕の頭。
今は考えなきゃいけない事がたくさんあるんだ。
炎天下の街を抜ける。坂を駆け上がる。
のどが焼ける。肺が軋む。滝のように流れる汗が視界を奪う。
眼。あの眼。
作り笑顔の下のあの眼。
人を見下すあの赤い眼。
魂まで見透かしそうなあの赤い眼が。
泣きそうに、歪んだ。
「嫌だッ!」
僕はマンションのドアを叩き開けると、そのまま風呂場へ倒れ込んだ。
「シンちゃんっ!?」
ミサトさんの言葉を無視し、服のまま頭から水をかぶる。そのまま全開のシャワーに口を付けのどの奥まで水を流し込むと、その勢いに激しくむせた。
「シンちゃん!どうしたの!?」
「ほっといてよっ!」
咳き込みながら払い除ける。ミサトさんの手。ミサトさんの体。僕の手首を掴む。
違う。掴んだのはあいつ。
渚カヲル。
「僕をほっといて!」
叫びながら押し返す。渚を。違う。ここにいるのは。
「綾波…っ」
アスカ
父さん
エヴァ
ミサトさん?
「ミサトさん…っ!」
ミサトさんミサトさんミサトさんミサトさん!
崩れていった幾人もの綾波。壊れてしまったアスカ。血の匂いのエントリープラグ。血の色の瞳の……渚、カヲル。
『君の事考えると』 僕を、 『くるしいんだ』 これ以上、 掻き乱さないで……
「シンちゃん!!」
僕はそのまま意識を失った――