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信じられない。
朝、目が覚めると、僕のベッドにシンジ君がいた。
「すやすや」
僕のベッドで眠っている。
「んー…」
僕のベッドで寝返りを打ってる。
「くぅ」
僕のベッドで寝息をたてて……
嘘っ!?
「信じ、られなぁーーーーーーーーーい!!!」
僕は飛び起きた!!
朝から刺激的な映像で、僕は心臓がバクバク、バクバク。一気に血圧が上がってしまった。
いけないいけない。ゼーレの老人達に健康管理はきちんとするように言われてるんだ。僕はベッド脇のサイドテーブルの中から血圧計を取り出すと……って、
「こんなことしてる場合じゃなーーーーいっ!!!」
血の巡りの良くなった頭で思い出す。
確か昨日はシンジ君が遊びに来て、僕が新しい格闘ゲームに付き合わせて、遅くなったからって泊まって行く事になったんだ。
『ねーねー、ソファじゃなくて一緒に寝ようよー』
僕が過呼吸を止めて以来、シンジ君はソファで寝るようになってしまった。元はと言えば僕が悪戯でキスしたからなんだけど。
正直何も考えてなかった自分が憎いっ、とか思っていたら。
『……いいよ、一緒に寝ても』
『ほへっ!?』
あっさりΟКが出た。
『いいいい、いいの!?』
良いの?良いの?
『うん、何だかソファも狭いしね』
そのかわり何もしないでよ。と言ってシンジ君は笑った。
『なな何もって?』
『……』
何もってなんですか!?あんなことやこんなことッ!?
『……やっぱソファで寝る』
『嘘嘘!冗談!何もしません!』
約束するよ、と真顔で言うとシンジ君は、 『久しぶりだね。隣で寝るの』 そう言って僕の隣に潜り込んで来たんだ。
それから数時間……。悶々としていた割にあっさり寝付いてしまった僕は、あろうことか寝ている間にそんな事をすっかり忘れてしまっていた。
で、朝。改めて直面した奇跡の事実に我を忘れて驚き転げまわってる、というわけだ。
「んん…」
「ビクウッ!!」
突然の吐息に脳天まで神経がぶっとんだ。起きてない?まだ起きてないよね!?そう思いながら恐る恐る近づいて、そっと顔を覗いてみる。
小さな顔がすやすやと、小さな寝息を立てている。布団のはだけた華奢な肩も、それに併せて揺れている。
「シンジくん?」
小声で名前を呼んでみる。
「あさだよ」
起きない。まだ起きない。
胸の内がきゅう、と鳴った。
小さな顔。小さな耳。小さな鼻。柔らかそうな髪がおでこに掛かって、緩く乱れてカールしている。そこだけ夜が残っているような黒い髪。同じ位黒いまつ毛。信じられないくらい綺麗な黒。僕の大切な大切な君の色。
とくとく、と僕の鼓動は速くなった。指の先が痺れたみたいになって息があがる。
「シン……」
「ふ」
唇が少し開いた。僅かに覗く白い歯と、水気を含んだ赤い舌。
「…は…っ」
胸を押さえて少し下がる。いけない。いけない。これ以上……
嫌だ。
どうしよう……
キス、したい。
あんな悪戯じゃなく ”本当” に。君に触れて触れられたい。
ダメダメ、駄目だ。約束したもの。何もしないって誓ったもの。でも、でも、だけど、だけど……
「今、寝てる、し?」
僕は改めて彼に近付いた。まだ、寝てる。まだ起きない。
きっとキスぐらいじゃまだ起きない。きっと、今なら……。
僕はシンジ君を見る。ゆっくり顔を近付ける。彼の息が掛かるくらいまで顔を寄せる。
そうして僕は……
そっと指で、唇に触れた。
――――――――………
「ふぅ……」
カヲルが出ていった部屋で、シンジは大きく息をついた。
目を覚ますとカヲルが床で悶絶していた。薄目で様子を伺うと、近付いたり離れたり転がったり、何故か血圧を計ったりまでしていた。
(な、何やってんの!?)
そのうちずずずいーーと近付いて来て、
(ひ、ひえーー)
と思うままに、唇に軽く何かが触れた。キスされた!と思ったが、その硬い動きに指だと気付いた。
カヲルは指先で何度か唇をなぞると、シンジの胸に軽く頭を埋めて部屋を出て行った。
(た、助かった、のか?)
いやいや、一応彼は約束を守ってくれたみたいだ。ギリギリセーフではあるけれど。
シンジはまだ指の感触の残る唇に触れてみた。薄目で覗いた、戸惑って慌てて、躊躇っているカヲルの姿。
「ふふ」
なんか可笑しい。
「ちょっと可愛そうだったかな?」
そう思ってシンジは、小さな舌をペロリと出した。
END.