MOON

…1/1

「あいしてる」

あいしてると呟く君の唇に、人差し指を当ててみた。

「愛してる」

指先に当たる、くすぐったくて小さな息。ふにふに動く厚めの唇。
なんだか可愛らしくて、思わず笑った。

「ふふ」

渚が僕につられたみたいに唇の端を上げる。指の先に三日月の形。柔らかくて暖かい、生きてる君の笑顔の形。

「シンジ君愛してる」
「ふふふ。はいはい」
「信じてる?」
「信じてるよ」
「伝わってる?」
「伝わってるって」
「じゃあこれは?」

そう言って渚は三日月の口元をぱくりと開いて、僕の指をその内側に閉じ込めてしまった。

「むふ」

君の三日月の内側は、熱くないのにマグマみたいにうねっていて、捕えられた僕の指は、まるでクレーターに落っこちた蟻んこみたい。
ふわふわでトロトロな月のマグマに溶かされて、僕の末端は直ぐに正体を無くした。

「……ん、ふ」
「ん」

指を引き抜くと、君の三日月は半月に形を変えて開くから、僕は僕も唇を開いてそれに重ねる。眼を閉じると、目蓋の裏に宇宙みたいな闇が広がった。

「シンジ君」

君に閉ざされる僕の世界。

「愛してるよ」

月のマグマが流れ込んだ。



END.

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