「あいしてる」
あいしてると呟く君の唇に、人差し指を当ててみた。
「愛してる」
指先に当たる、くすぐったくて小さな息。ふにふに動く厚めの唇。
なんだか可愛らしくて、思わず笑った。
「ふふ」
渚が僕につられたみたいに唇の端を上げる。指の先に三日月の形。柔らかくて暖かい、生きてる君の笑顔の形。
「シンジ君愛してる」
「ふふふ。はいはい」
「信じてる?」
「信じてるよ」
「伝わってる?」
「伝わってるって」
「じゃあこれは?」
そう言って渚は三日月の口元をぱくりと開いて、僕の指をその内側に閉じ込めてしまった。
「むふ」
君の三日月の内側は、熱くないのにマグマみたいにうねっていて、捕えられた僕の指は、まるでクレーターに落っこちた蟻んこみたい。
ふわふわでトロトロな月のマグマに溶かされて、僕の末端は直ぐに正体を無くした。
「……ん、ふ」
「ん」
指を引き抜くと、君の三日月は半月に形を変えて開くから、僕は僕も唇を開いてそれに重ねる。眼を閉じると、目蓋の裏に宇宙みたいな闇が広がった。
「シンジ君」
君に閉ざされる僕の世界。
「愛してるよ」
月のマグマが流れ込んだ。
END.